Hanakoya Blog
第24話 ナポリシャツの襟元 〜襟元で印象が変わった〜
第24話
ナポリシャツの襟元 〜襟元で印象が変わった〜
高級シャツの代名詞ともいえるナポリシャツはビジネスマンに限らず、お洒落なシャツの定番アイテムともいえます。
ナポリシャツといえばルイジボレッリ、バルバ、フライなど有名なところですが、部分的にハンドメイドで仕立てられたシャツは一度、袖を通すとマシンメイドのシャツが着られなくなるほど着心地の良いものです。
ネクタイを締めた時のシルエットやノーネクタイでも独特の襟の立ち上がりがあります。
細部に計算された裁断と縫製が最終的な着心地やシルエットに反映されているのです。
先日、あるお客様からご相談頂いただきました。
「ナポリシャツを何枚か持っているのですが、一度、クリーニングに出したらシワシワになってしまい、それ以来、自分で洗っています。ただ、どうしても襟周りが黒ずんできているので綺麗にしたいのですが、Hanakoyaさんで扱っていますでしょうか。」
最近はスーツの水洗いとともにナポリシャツのご依頼も良くいただいております。
Hanakoyaではナポリシャツに限らず、すべてのシャツは手洗い、手仕上げとなります。
滑らかな生地の感触を引き出すために糊は付けず、アイロンワークで丸みをもったシルエットに復元します。
ナポリシャツは襟の黄ばみや黒ずみのご相談が一番多いのですが、殆どのシャツで見受けられるのが襟の縮みです。
これでは襟先がゆがんでしまい、せっかくの襟元が台無しです。
襟の縮みやシワは、クリーニング店での高温による機械洗浄が原因です。
クリーニング代は安く済むかもしれませんが、こだわりのシャツだからこそ、メンテナンスにもこだわりたいところです。
ご自身で洗われるなら、やはり手洗いで脱水などしないで手で押さえながら水を切って、最後に形を整えて自然乾燥します。
自然乾燥時に水が滴る程度がシワも伸びて良いです。皆さんも実践してみてはいかがでしょうか。
話は変わりますが、2020年東京オリンピックが決まりましたね。
最終のプレゼンテーションは皆さん、感情のこもった素晴らしいスピーチでした。
今回のプレゼンではシャツはクレリックでストライプというとても清潔感のあるものでした。
IOCの選考委員にも好感が伝わったのではないでしょうか。
「スーツは安物でもシャツは良いものを選ぶ」と良く言いますが、逆にいえば「高価なスーツを着てもシャツやネクタイ次第で安く見える」とも言われます。
襟元で人の印象は非常に変わるものなのです。
第23話 ~取り扱い品目は危険物です~
第23話
~取り扱い品目は危険物です~
マッキントッシュコートといえば内側にゴムを張り付けた防水性に優れたコートです。
張りのある素材から醸し出される独特のシルエットや綿素材の発色の良さなど、非常にファッション性に優れたアイテムですね。
同じような素材で裏地と表地を貼り合わせたボンディング素材も同様に「マッキントッシュ風」などと謳われ、こちらも人気のアイテムです。
先日、某有名ブランドの定番コートをご依頼頂いたのですが、こちらもいわゆるマッキントッシュ風のボンディング素材です。
人気アイテムなので、Hanakoyaでも良くご依頼頂いています。
ただ、今回の商品は薄いライトグレーのコートで、洗ったことで裏地の濃い色がにじんでしまい、最終的に取れない状況に陥ってしまいました。
ちなみに洗濯表示には「水洗いして下さい。」と、Hanakoyaでもこのコートは水洗いとなります。
表示通りのクリーニング内容で不具合が起きた場合は商品自体に問題があるケースも考えられるため、原因を調べようとメーカーに問い合わせてみました。
連絡すると、
「クリーニング鑑定書を添付して商品を送ってほしい」
とのこと。
クリーニング鑑定書というのも初めて聞くものだったので、色々と調べていたところ、公的な研究機関で商品の染色堅牢度などを調べて頂けるようだ。
早速調べて頂いて鑑定書を同封してメーカーに送ったところ、後日メーカーより返答を頂きました。
「鑑定書では生地に問題ありと書かれていますが、この商品は2004年モデルで経年劣化による複合的な要素が色が出た要因と考えられます。大変申し訳ございませんが、こちらではお力になれることはございません。」
約一ヵ月間、話し合いを繰り返しましたが、メーカーは終始『経年劣化』を言い続けるばかりで明確な原因は分からず、話は平行線のままです。
最終的にこちらが折れるようなかたちで話が終結しました。
お客様にはその都度、状況をご報告し、事後対応させていただきました。
後で分かったことですが、この商品のクリーニング事故が頻繁に起きているということを知り、自分自身の知識のなさに反省するばかりでした。
現在、この商品は「クリーニングできません。」という表記になっていますが、メーカー側のトラブルを避けるための苦肉の策なのでしょう。
ちなみに、購入して4年以内のものは状況によっては対応して頂けるようです。
ただ、メーカーによっては対応の仕方が変わりますので、大まかな基準とお考え下さい。
ファッションアイテムはデザイン性が高まるとクリーニングが非常に困難なものになります。
今回のメーカーはその旨を伝えて販売されているようです。
消費者はどうしてもデザイン性に惹かれて購入しますが、長く着用したいのならメンテナンスも含めて購入を考える必要があります。
私は洗えないものでも洗う以上は綺麗にしなければいけません。
作る側と着る側、そしてメンテナンスする側、この三者それぞれに責任があるということです。
ただ、どうしてもファッション性が重視されるところなので、私たちの責任は重くなるばかりです。
今回の件を受けて改めて実感させられました。
良く工房内で「危険物」という言葉が飛び交うことがあります。
私たちの取り扱い品はモノですが、そこには「大切な人からプレゼントされた」や「母から譲り受けた」という「コト」が含まれてきます。
そんなお客様の大切なアイテムだから、言葉は悪いかもしれませんが、これからも危険物を扱うように慎重にケアしなければと改めて感じた次第です。
第22話 ~25年前のシミの記憶~
第22話
~25年前のシミの記憶~
先日、お客様から子ども用トレンチコートのシミ抜きをご依頼頂きました。
「福永さん、どうしても綺麗にしたいコートがあるのですが、一度見てもらえませんか?品物は25年前の古いものですが、思い入れがあるもので綺麗になれば孫に着せたいと思っています。ただ、近所のクリーニング店を数店まわって相談したのですが、どこも取れないと言われました。大丈夫でしょうか。」
シミは時間が経過すると取れにくくなるものなので、25年前のシミともなると私も取れるか不安です。
実際にお持ちいただいたものを見るとカビによる変色と食べこぼしの古いしみなど、普通に洗っただけでは取れないシミばかりです。
どうして25年前のものを綺麗に?そう思ってお客様に尋ねると、
「これは娘の小さい頃に買ってあげたもので、汚れてしまってクリーニングしても取れなかったので、そのままタンスにしまっていたものです。ただ、その娘が結婚して孫が生まれて今、丁度同じような背丈なのでもう一度よみがえれば着せてあげたいと思っています。なんだか孫を見ていると娘の小さい頃を思い出してしまって・・・。それとこの染みは娘が怪我をしたときに付いた血液のシミです。」
ご依頼品は三陽商会のトレンチコートです。
バーバリーなども扱っているメーカーなので素材や縫製もしっかりしていてシミが綺麗になればまだまだ着用できるものです。
カビ跡や血液の古いシミを除去するためにかなり強い薬品を使用しますので、薬品に素材がどこまで耐えられるか、素材の状態を確認しながら段階的にシミを除去していきます。
後日、綺麗になったコートをお孫さんと一緒にお引き取りに来られました。
「○○ちゃん、ちょっと着てみて。」
ジャストサイズでコートを羽織ったお孫さんは、当時の娘さんのように見えたのでしょうね。
「お母さんの小さい頃とそっくりね。」
と微笑んで帰られたのが印象的でした。
第21話 ~パンプスとカーネーション~
第21話
~パンプスとカーネーション~
先日、女性のお客様からパンプスのメンテナンス依頼を頂きました。依頼品はシャネルのバイカラ―で定番の商品です。つま先のキズや汚れが目立っていたのですが、良く見ると小指のあたりが乾燥してかなりひび割れていました。レザーが一度ひび割れすると元には戻りませんので、せっかく綺麗にしてもご満足いただける仕上がりにはならないものです。パンプスを履くシーンや、商品に対する想いいれなどをお聞きして最善の方法をご提案させていただくのですが、靴の場合は履くことを前提に考えるので、どうしてもひび割れの商品はあまりお勧めできません。
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「履かないので直して下さい。」
「??」
「母親の遺品なので綺麗にして飾っておきたいのです。12日には間に合いますか?」
<br />
なるほど。履かないのであれば、ひび割れは見た目綺麗にすることはできます。せっかくなので、リフトもお直しして後日お渡しさせていただきました。
「綺麗にしていただき有難うございます。この靴は母親のお気に入りだったので、捨てることができなくてどうしようかと思っていたところなのです。助かりました。」
<br />
明日12日に間に合わせたかったのは母の日だったからなのですね。素敵なプレゼントです。綺麗になったパンプスにカーネーションが添えられて飾られていると、亡くなったお母さんも喜ぶことでしょうね。
第20話 ~靴を磨くという事~
第20話
~靴を磨くという事~
4月に入り、いよいよ新年度がスタートしましたね。街には新調した着なれないスーツ姿の新入社員達が緊張した面持ちで歩き、入社式を無事に終えて今は一人前になるための新入社員研修といったところでしょうか。入社式では企業のトップが新入社員に向けて、はなむけの言葉を贈っていますが、今年はアベノミクス効果でしょうか、地元紙の記事には前向きな発言をされた社長が多かったように感じます。
先日、店頭にお見えになられたお客様も地元の会社を経営されている方で、入社式の前にと靴のメンテナンスをご依頼頂きました。普段、身だしなみには気を付けている方ですが、入社式の前には必ず靴を修理されているそうです。入社式の社長挨拶では必ず靴の手入れのことを話されるそうで、ご自身も先代から厳しく言われていたようです。
「うちの会社は営業マンばかりなので靴を磨くことは数字よりもうるさく言っているのですよ。新入社員の最初の仕事は自分の靴を磨くことです。」
社長のご紹介もあり、この会社の社員さんは何名か当店をご利用いただいていますが、確かに靴はいつも綺麗です。綺麗な靴を履いていることも影響しているのでしょうか、皆さん営業マンらしく爽やかではつらつとしています。
社長が帰り際に言われた言葉が印象的でした。
「私は単に靴を磨くことを教えている訳ではないのです。靴を磨くことで自分を磨くことができるのです。自分の印象を良くするために考える時間がそこにあるのですよ。うちの若いのが来たらよろしく頼みますね。」
恐らく、社長自身が先代から学んだことを継承しているのでしょうね。