Hanakoya Blog
第19話 加賀友禅の留袖~受け継がれてゆくもの~
第19話
加賀友禅の留袖~受け継がれてゆくもの~
卒業式や入学式シーズンを迎える今は靴やバッグなどはもちろん、着物の染み抜きやコサージュなどのアクセサリーのメンテナンスなども非常に多くご依頼頂きます。ご卒業のお子さんを持つ親御さんの中には早い時期からご準備されている方がいます。なによりも親御さんにとっては、子どもが成長する過程の中での一大イベントですからね。先日、入学式にと留袖の染み抜きをご依頼頂きましたのでご紹介させていただきます。
ご夫婦でご来店頂いた奥様がお持ちされたのは、たとう紙に大切に包まれた一枚の留袖でした。「実は春に孫が入学式を迎えるので、その時に母親である娘に着せようと思っているのですが、きれいになるでしょうか。この着物は私が娘の卒業式に着たもので、かれこれ30年ぐらい前のものです。娘もこれを着て入学式に出たいと言うものですから・・・。」
一見、色無地かと思いきや、小さな桜の柄が裾にしきつめられた春らしい加賀友禅の留袖です。30年の月日を思わせるような黄変が各所に見受けられますが、染み抜きできれいになるものです。
「お時間を頂きますが、シミは概ねきれいになりますよ。ご入学式には十分間に合います。」
着物のシミは時間が経過していないものでしたら比較的簡単に取れるものですが、今回のような古いシミは部分的な漂白や、色掛けなども施します。お時間は頂きますが、古いものでも一般的なシミであれば概ねきれいになります。
後日、お引き取りに来られたのは娘様でした。子どもの頃、母親がこの着物を着て一緒に入学式に行ってくれたことを今でも覚えているご様子です。「あの時のことを思い出して無理やり母に頼んだのです。きれいにしていただけて有難うございました。私の娘にも着せることができるかしら?」
「お母様のように大切に保管されていれば大丈夫ですよ。」娘様が大切に両手でお持ち帰りになった姿が印象的でした。少しずつ春が訪れようとしていますね。