Hanakoya Blog
第4話 受け継がれていくもの~震災に遭ったバーキン~
震災の自粛ムードが落ち着き、少しずつお客様が戻ってきたある日、被災地である宮城県からバッグが送られてきました。しっかりと梱包された箱の中には一通の手紙と共に泥まみれのバーキンが入っていました。手紙には母親から譲り受けたとても大切にしているバッグが津波で流され、汚れて形も崩れてしまったとの旨。なんとか甦らせてほしいとご依頼頂きました。バッグは汚泥が革に染みついている状態です。海水を吸ったせいか白く塩分が浮き出て、油のような黒ずみも全体に確認でき、震災の悲惨さを物語っていました。自然災害で汚れたバッグのご依頼は過去にも何度かありましたが、津波で海水に浸かってしまったものは初めてのケースです。
今回のように難しいアイテムの場合は、私を含めた作業スタッフ全員でバッグを囲み、作業スケジュールを確認します。汚れ具合や素材、構造などによって作業見解が変わってくるのです。
3人の職人によって甦ったバッグは無地にオーナー様のお手元に届き、後日お礼の手紙が届きました。「福永さん、この度は有難うございました。甦ったバッグは娘にも渡せるように大切に使用します。」バッグは震災の教訓と共に世代を超えて受け継がれていくのでしょうね。
平成23年10月8日掲載
第3話 問い合わせ、なし
「今日の問い合わせは何件?」
「ゼロです。」
「・・・・・。」
3月11日以降、こんな日が何日も続きました。震災以降、「こんな時にブログで自社のアピールなんて不謹慎すぎます。」などとネット上ではブログが炎上している光景がしばしば見受けられました。企業や個人のブログも自粛ムードが高まり、HanakoyaでもHPやブログの更新、メルマガの配信を控えていました。その為、アクセス数が急激に下がり、毎日のように届いていた全国からの申し込みや問い合わせのメールはまったくなくなりました。工房内はいつもの活気がありません。
亡くなった方のご家族のことを考えると気持ちが前に向かないのですが、いつまでこの状況が続くのか・・・?不安な日々が続いているとき、被災者によるお花見や花火大会の企画が持ち上がってきました。被災した方々が、私たちの自粛ムードを打ち消したようにも捉えられる行動です。国内の自粛ムードがようやく解かれようとしたとき、Hanakoyaにもいつものお客さまが少しずつ戻ってきました。
「今年もブーツのクリーニングお願いします♪」何事もなかったかのように、いつものお客様からご依頼のメールをいただくようになりました。中には、「被災地にいる親戚に靴を送りたいので洗って下さい。」など。お客様の元気が工房内に活気を取り戻しました。こんな時こそみんなで前を向いていくことが大切ですね。
平成23年9月3日掲載
第2話 トータルファッションメンテナンス?
「ここは何をしてくれるお店ですか?」
オープン以来、お客様から良くこのようなご質問をいただきます。「靴や鞄、レザー製品の洗浄・染色・修理、その他、特殊クリーニングから染み抜き、衣類のリフォームまで承っております。」口で説明すると非常に長くなるのですが、これでもかなり省略しています。端的に言うと「トータルファッションメンテナンス」なのですが、これってあまり聞かない言葉です。インターネットで「トータルファッションメンテナンス」と検索するとHanakoyaのページが一番上にくるのはうれしいことですが、簡単に上にくるということは一般的にあまり使われていないフレーズなのですね。
大きな括りでいえばクリーニング業ですが、レザー製品を扱うお店は少なく、靴の修理までやっているお店は全国的にみてもあまりないようです。ましてや靴やバッグのクリーニングや染色というのは「そんなことできるの?」と言われるほど一般的に浸透していないのが現実です。ライバル店がないのは良いことかもしれませんが、その分、市場を開拓していく必要性があるようです。
オープンして1年、身をもって感じたこの現実の厳しさ!地元の方々に認知されるには、まだまだ時間がかかりそうです。まずは地域のオンリーワンを目指し、大切なアイテムがよみがえる喜びを一人でも多くのお客様にご提供していきます。
平成23年8月6日掲載
第1話 「花子」の想い
「あんちゃーん!起きまっしぃ!!」小さかった頃の私の一日は母親のこの一声から始まっていた。クリーニング店に生まれた私の家は朝が早く、母親は毎朝、工場で一仕事を終えて私を起こしてくれていました。部屋から降りていく階段の片隅には今朝洗い上がった体操服やYシャツがたたんで置いてあり、糊の効いたシャツに腕を通して登校する毎日。昨日転んで汚してしまった体操服の泥汚れがキレイに落ちているのも当たり前のように、毎日のように泥んこになるまで外で遊んでいた当時。汚れてしまったお気に入りの洋服が見事にキレイになっていた時、初めて感謝の気持ちがこみ上げてきた。
時が経ち、学生生活も終え、長男だった私は家業を継いでいました。クリーニング業を営んでいた3年前、病気を患っていた母が亡くなり、最気を看取った瞬間、幼い頃に受けた母親の愛情が甦り、涙が溢れ出た。それが「Hanakoya」誕生のきっかけとなった。
新しいかたちのファッションメンテナンス工房「Hanakoya」は「お気に入りのアイテムと、とことん付き合うお洒落」を応援し、修復師:福永をはじめとするプロのスタッフが直接お客様と向き合って依頼品を診断する、今までのクリーニングの概念を持たない新たなプロショップである。
「Hanakoya」は修復師:福永哲夫が母親の名前「花子」を元に、母親の愛情を「ケアを通してその想いをお客様に感じてもらいたい」と願い誕生した。
平成23年7月2日掲載